皆さん、こんにちは。
お茶好きの Andy です。
本来、茶葉は濃い緑色をしているはずですが、
中には特に黄色く見えるものがあります。
これは一体なぜでしょうか?
この現象をしっかり説明するために、
今回の記事は少し長くなります。ご了承ください。
茶葉が黄色くなる理由とは?
葉が濃い緑に見えるのは、葉緑素分子の中心にマグネシウムイオン(Mg²⁺)があるためです。
葉緑素が「脱マグネシウム(demetalation)」を起こしたり、分解や合成が妨げられたりすると、
葉色は深緑から黄緑、オリーブグリーン、さらには褐緑色へと変化します。
葉緑素とは何か?
葉緑素は「ポルフィリン環(porphyrin ring)」と呼ばれる大型の環状構造を持ち、
その形状は蜘蛛の巣のようです。
この構造の中央にはマグネシウムイオン(Mg²⁺)が固定されています。
葉緑素には 2 つの重要な特徴があります:
1. 大きなポルフィリン環 → 光を吸収する
2. 中心金属イオン Mg²⁺ → 緑色の発色と吸光の安定性を与える
中心の Mg²⁺ が(たとえば H⁺ などに)置き換わると、
葉緑素は鮮緑色から黄緑色へ変化します。これが「脱マグネシウム反応」です。
興味深いことに、
植物の葉緑素と人体のヘム(heme)は非常によく似た構造を持っています。
共通点:
・どちらも大型のポルフィリン環(蜘蛛の巣構造)を持つ
・どちらもエネルギーと生命活動の中心的な役割を持つ
違いは中心金属です:
・葉緑素 → Mg(Mg²⁺)
・ヘム → Fe(Fe²⁺)
つまり、葉緑素の中心 Mg を Fe に置き換えると、
ヘムと非常に似た構造になるのです。
「緑色植物のエネルギー中心と、人間の血液のエネルギー中心には共通の祖先がある」
といえるわけです。
茶葉が黄変する原因
葉緑素が脱 Mg・変色する原因には、酸性化、老化、光酸化ストレス、栄養不足、
高温処理、遺伝的変異、そして寒さによる生理的損傷があります。
① 酸性化(Acidification)
細胞環境の pH が約 5 以下になると、H⁺ が Mg²⁺ を置き換え、
葉緑素はフェオフィチン(pheophytin)へと変化し、葉色は黄緑〜暗緑になります。
よく見られる状況:
・葉の損傷
・病害感染
・低酸素状態
・冠水
・萎凋時間が長すぎる場合
・茶菁の酸性化
これは最も典型的で、最も起こりやすい脱 Mg の仕組みです。
② 老化(Senescence)
葉が老化すると、光合成能力が低下し、葉緑素結合タンパク質が分解され始めます。
同時に chlorophyllase や Mg-dechelatase の活性が高まり、
葉緑素の脱 Mg や分解が進み、葉が黄色くなります。
これは秋の紅葉現象や、茶樹の古葉が黄変する主な理由です。
③ 光酸化ストレス(Photo-oxidative stress)
強光、高温、乾燥状況では大量の活性酸素(ROS)が発生し、
葉緑素や光合成系を攻撃し、葉緑素の分解や脱 Mg を引き起こします。
典型例:
・強光直射
・急な遮光除去
・熱波
・乾熱風
・水不足
夏の茶園でよく見られる、淡黄緑や斑状黄化がこれに該当します。
④ マグネシウム欠乏(Mg deficiency)
Mg は葉緑素の中心金属であり、移動性の栄養素です。
欠乏すると新葉で葉緑素が十分作れず、
古葉では「葉脈は緑・その間が黄」の典型的失緑症状が現れます。
脱 Mg そのものではありませんが、見た目は同様に黄緑色になります。
⑤ 高温処理・加工(Heat-induced changes)
70〜80°C を超えると葉緑素の安定性が低下し、
水分を含んだ葉が酸性化を伴うと脱 Mg が急速に進みます。
製茶で見られる状況:
・殺青の遅れ
・萎凋の酸性化
・蒸気との接触
・水分過多の加熱
これがいわゆる 「悶黄(蒸れ黄)」 の原因です。
⑥ 酵素作用(Enzymatic degradation)
葉の損傷、老化、病害などが起こると chlorophyllase や Mg-dechelatase が活性化し、
葉緑素の脂鎖が切断されたり、脱 Mg が進行し、葉色が淡黄緑になっていきます。
⑦ 寒さによる黄化・脱 Mg
寒さは光阻害、代謝停滞、細胞損傷などが複合的に働くため、
茶樹(亜熱帯植物)は低温に特に弱く、冬や寒波では黄変が頻発します。
特に 高山茶・冬片茶 によく見られます。
寒冷の主な作用メカニズム:
A. 低温による光合成停止 → ROS 増加
低温で光合成酵素が働かず、吸収した光エネルギーが処理できず ROS が急増し、
葉緑素を攻撃して脱 Mg や分解を引き起こします。
症状:淡黄緑、斑状黄化、日焼け様の症状。
B. 低温で葉緑素合成が阻害
Mg-chelatase や POR などの合成酵素の活性が低下し、
新葉が黄色〜淡緑色になり、光に敏感になります。
これは脱 Mg ではなく「合成不足」型の黄化です。
C. 寒害 → 細胞膜破損 → 酸性化 → 脱 Mg
0°C 付近や霜害では細胞膜が破れ、
酸性の液胞内容物が漏れ出し、局所的 pH が低下し、
葉緑素の脱 Mg が直接進みます。
D. 寒流後の茶樹で見られる特徴
・新芽:合成不足 → 淡黄緑
・成葉:ROS の蓄積 → 黄斑
・受凍葉:酸性化+脱 Mg → オリーブ色、暗黄緑、葉縁の損傷
これらは春茶の品質にも影響し、冬片茶の独特な風味の源にもなります。
⑧ 植物の突然変異(Mutation)による黄化・白化
一部の植物では、黄化が環境要因ではなく、
葉緑素の合成・結合・分解に関わる遺伝子の突然変異によって起こります。
植物の黄化変異は主に 3 種類に分類されます:
A. 葉緑素生合成遺伝子の変異
Mg-chelatase、POR、CAO などの酵素遺伝子が変異すると、
葉緑素が正常に合成されず、新芽が淡黄色〜黄白色になります。
このタイプは安定しており、環境が改善しても元に戻りません。
茶樹の黄化芽の一部はこのタイプです。
B. 葉緑素結合タンパク質や光合成系の遺伝子変異
LHC や光合成系の遺伝子が変異すると、
葉緑素は合成できても光合成系に安定して結合できず、
植物は光障害を避けるため積極的に葉緑素を分解します。
葉は黄緑色または斑入り(variegation)になります。
C. 葉緑素分解・脱 Mg 経路の過剰活性化
chlorophyllase や Mg-dechelatase の活性が遺伝的に高まると、
葉緑素が高速で分解または脱 Mg され、急速な黄変が起こります。
老化の黄変に似ていますが、より均一で速いのが特徴です。
茶樹に見られる突然変異の黄化
茶樹には黄化芽・白化芽・黄金芽系が存在し、一般に以下の特徴があります:
・アミノ酸が多い
・ポリフェノールが少なめ
・より甘く、まろやかな風
四季春の突然変異種「金蘭」はその代表です。
これらの黄化は「脱 Mg」ではなく、
「葉緑素合成不足」によるもので、
色も暗黄緑ではなく、淡黄色や金色になります。
まとめ:茶葉が黄緑〜黄色になる主要な4分類
一、葉緑素の脱マグネシウム(真の脱 Mg)
・酸性化(葉の損傷)
・酵素による脱 Mg(葉の損傷)
・高温や傷害(過度な加熱・悶黄)
・寒害による細胞の酸性化(高山茶・冬茶・冬片茶)
二、葉緑素の分解
・老化(葉の過熟)
・光酸化ストレス(葉の損傷)
・ROS の攻撃(葉の損傷)
三、葉緑素合成不足
・Mg 欠乏(栄養不足)
・低温による葉緑素生合成阻害(高山茶・冬茶・冬片茶)
四、光合成系・葉緑体の遺伝的異常
・結合タンパク質の機能不全
・葉緑体の未発達
・斑入り変異
色の違いによる整理
・脱 Mg → 暗黄緑・オリーブグリーン
・合成不足 → 淡黄・淡緑・黄金色
・光障害 → 斑状黄化
・突然変異 → 均一で安定した黄化または斑入り
補足:なぜ抹茶食品は加熱に弱いのか?
抹茶の鮮やかな緑色は 天然の葉緑素 によるものですが、
葉緑素は「熱・酸・光」に非常に弱い物質です。
抹茶を 70°C 以上で加熱すると、次の 3 つが起こります
1. 葉緑素が分解される
2. 高温による脱 Mg が進み、暗黄緑のフェオフィチンが生成される
3. 多酚(ポリフェノール)の酸化でさらに黄〜褐色へ変化する
そのため、加熱した抹茶食品は
「鮮緑 → 黄緑 → 暗緑 → 褐緑」
へと変化します。
焼き菓子の抹茶が鮮やかな緑を保てないのはこのためです。
逆に、加熱前後で全く色が変わらず、蛍光のような鮮緑を保つ場合は注意が必要です。
天然抹茶ではなく、
- 銅葉緑素(Copper Chlorophyllin)
- 銅葉緑素ナトリウム(Sodium Copper Chlorophyllin)
など、人工的に安定化した葉緑素色素の可能性があります。
これらは天然葉緑素の中心 Mg²⁺ を Cu²⁺ に置き換えた色素で、
熱・酸・光に強い特性があります。
銅葉緑素は台湾を含むいくつかの国で合法ですが、
「使用範囲」と「使用量」が厳格に規定されています。
安全上の懸念が出るのは:
・使用量の超過
・許可されていない食品への使用
です。
台湾の食品添加物規格の概要
銅葉緑素の使用可能範囲:
1. ガム類:銅として 40 mg/kg 以下
2. カプセル状・錠剤食品:500 mg/kg 以下
銅葉緑素ナトリウムの使用可能範囲:
1. ガム類:銅として 50 mg/kg 以下
2. カプセル状・錠剤食品:500 mg/kg 以下
3. 乾燥昆布:銅として 150 mg/kg 以下
4. 加工野菜・果物、焼き菓子、ジャム・ゼリー:100 mg/kg 以下
5. 調味乳、スープ類、ノンアルコール飲料:64 mg/kg 以下
JECFA(国際食品添加物専門家委員会)の評価によれば、
銅葉緑素複合物はラットの長期試験で慢性毒性が認められていません。
WHO の勧告では、
体重 1 kg あたり 15 mg が 1 日の最大許容摂取量とされています。
体重 60 kg の成人なら 900 mg が上限となります。
許可範囲外の食品へ添加することは違法です。
以上が皆さんのお役に立てば幸いです。
お茶を淹れるときは、黄色くなった葉を選んで飲んでみてください。
経験上、このような葉は味が比較的淡いものの、
渋みが少なく、独特の風味があります。
また次回お会いしましょう。
#遊山茶訪 #台湾茶 #ウーロン茶 #凍頂茶 #観光工場 #FSSC22000 #安全茶 #安心茶 #葉緑素 #脱マグネシウム #冬茶 #冬片茶 #高山茶 #フェオフィチン #茶葉の黄変 #抹茶 #食の安全

