皆さん、こんにちは!
お茶好きの Andy です。
子どもの頃から「太陽に当てたお茶は香りが良い」と聞いてきました。
昔から言い伝えられ、今も多くの人が信じている言葉です。
今年、この言葉を分析機器と官能評価で検証した研究を読みました。
台湾の烏龍茶づくりの現場と照らし合わせて読める内容です。
まず結論から
日光萎凋(Solar withering)は、たしかに最もはっきりとした花の香りと蜜の香りを引き出します。
ただ、お茶の香りの良し悪しは、太陽に当てたかどうかだけでなく、
萎凋のときに茶葉が「どれだけ水分を失ったか」「どれだけの速さで失ったか」
をうまくコントロールできたかにもかかっているようです。
うまく管理できれば、室内萎凋だけでも同等の評価のお茶をつくれます。
ただし、香りの表情は少し異なります。
萎凋とは何をする工程か
萎凋(Withering)は烏龍茶づくりの最初の工程です。
摘みたての茶葉を広げて水分をゆっくり飛ばし、葉をしんなりさせます。
葉の中の化学変化も、ここから始まります。
この研究では、よく混同される二つの概念を分けて考えています。
- 失水率(Dehydration ratio):合計でどれだけ水分を失ったか。「量」のことです。
- 失水速度(Dehydration rate):1時間あたりどれだけ水分を失ったか。「速さ」のことです。
研究の方法
この論文は華南農業大学の研究チームが2026年に『npj Science of Food』で発表したもので、
研究対象は広東省の嶺頭単叢です。
単叢は台湾ではあまり見かけませんが、台湾の高山茶、凍頂烏龍茶、文山包種茶と同じく烏龍茶の一種で、
日光萎凋は製茶において最も重要な工程です。
研究チームは同じロットの生葉をいくつかのグループに分けました。
- 日光萎凋:36分で失水率10%に到達。
- 室内萎凋(同じく36分):失水率はわずか1.3%。
- 室内萎凋(失水率10%まで延長):5時間近くかかりました。
- 室内萎凋+送風:約3時間で失水率10%に到達。
萎凋後は製茶師が仕上げ茶に加工し、
ガスクロマトグラフィー質量分析計(Gas chromatography–mass spectrometry, GC-MS)
で香気成分を分析したうえで、評価者が採点しました。
発見その1:水分が十分に抜けて、はじめて青臭さが消える
茶葉には、青草のような香りを持つ (E)-2-ヘキセナール((E)-2-Hexenal)という成分があります。
失水率1.3%のグループではまだ多く残っていましたが、失水率が10%に達すると、
日光でも室内でもほとんど検出されなくなりました。
どこへ行ったのでしょうか。アルコール類やエステル類に変化したのです。
たとえば爽やかな印象のヘキセノールや、
果実のような清々しい香りを持つ酢酸シス-3-ヘキセニル((Z)-3-Hexenyl acetate)です。
雨の日に室内で萎凋したお茶が「青臭い」と言われやすい理由も、
ここから説明できます。多くの場合、天気そのものではなく、水分が十分に抜けていないことが原因です。
発見その2:水分が十分に速く抜けて、花の香りが高まる
同じ失水率10%でも、送風で速く水分を抜いたグループは、
ゆっくり乾かしたグループに比べて、ジャスミンのような花の香りを持つネロリドール(Nerolidol)が2倍以上になり、
リナロール(Linalool)やインドール(Indole)といった花の香りの成分も多くなりました。
著者らは、急速な水分の減少が葉にとって一種のストレス(Stress)となり、
葉が防御反応を起こす過程で花の香りの成分が多くつくられると推測しています。
つまり、花の香りの一部は、茶葉が「緊張」しているときに生まれるのです。
香りは日光萎凋が一番、でも室内萎凋も追いついてきた
仕上げ茶の官能評価では、日光萎凋グループの総合点が88.32、室内送風グループが87.8で、
統計的な差はありませんでした。香りの点数だけを見ると、送風グループのほうがわずかに高いほどです。
ただし香りをタイプ別に見ると、花の香りと蜜の香りの二項目では一貫して日光萎凋が最も強く、
室内のグループはどう調整しても追いつけませんでした。
一方、送風グループは果実の香り、焙煎香、木の香りが際立っていました。
つまり「太陽に当てたお茶は香りが良い」という言葉は正しく、それはおそらく、
あの花の香りと蜜の香りを指しているのでしょう。茶産地では「熱風萎凋をうまく扱える人なら、
品質は同じように良い」という声もあり、これもまた正しいと言えます。
どちらが正しいかではなく、生まれる香りの表情が違うということです。
雨の日、茶産地ではどうしているか
この論文の出発点は、「雨で太陽が出ないときにどうするか」という課題でした。
これは台湾でもよくある問題で、多くの茶産地では茶摘みの季節がちょうど雨季と重なります。
実際の対応には、おおよそ次のような方法があります。
摘まない
雨の日に摘んだ茶葉は表面が濡れていて萎凋が難しいため、天気の回復を待つ茶農家も少なくありません。
品質と収量のどちらを取るかという判断です。
室内に移し、採光屋根の下で萎凋する
採光屋根は雨を防ぎつつ、自然光をある程度取り入れることができます。
室内には扇風機や除湿機を備えているのが一般的です。
ここで重要なのが除湿機です。雨の日は空気そのものが湿っているため、風を当てるだけではあまり水分を運び去れません。
湿度を下げてはじめて、失水速度を上げられるのです。
論文と照らし合わせると、これはまさに「水分を十分に、十分な速さで抜く」ための工夫です。
熱風萎凋槽を使う
日光萎凋を行わず、最初から熱風萎凋槽を使う地域もあります。
熱風なら失水の量と速さを効果的にコントロールでき、うまく扱えば品質も安定します。
採光屋根の光は、太陽の光と同じではない
採光屋根について、私には以前から一つの疑問があります。
雨を防ぐと同時に、日光に含まれる何かも遮ってしまっているのではないか、ということです。
論文は「太陽あり」と「太陽なし」を比べただけです。
しかし日光には強い光、熱、紫外線、青色光が同時に含まれていて、
そのどれが作用しているのかまでは切り分けられていません。
論文では、
酢酸シス-3-ヘキセニルの生成が青色光によって誘導される遺伝子発現と関係している可能性に触れているだけです。
現場では、次の点に注意する価値があります。
- 一般的なPC採光板(Polycarbonate、ポリカーボネート)の多くには、板材自体の劣化を防ぐためのUVカットコーティングが施されており、結果として紫外線の大部分を遮ってしまいます。
- PEフィルム(Polyethylene、ポリエチレン)も、紫外線吸収剤が添加されていれば、紫外線の透過量が減ります。
- 板材は長年使うと黄ばみや曇りが出て、可視光の透過率も下がります。最初に影響を受けやすいのは青色光です。
つまり同じ「採光屋根の下での萎凋」でも、材質が違ったり、
同じ板を何年も使っていたりすると、茶葉が実際に受ける光は大きく異なる可能性があります。
室内のグループの花の香りや蜜の香りが、いつも日光萎凋に一歩及ばなかった理由も、ここにあるのかもしれません。
論文の著者らも、将来的には太陽光のスペクトルを再現するLED補助萎凋を開発し、この部分を補えるのではないかと述べています。
良いお茶は、天気と設備と人が一緒につくる
この研究からわかるのは、萎凋が「日光に当てるか、当てないか」の二択ではないということです。
失水の量が青臭さを消せるかどうかを決め、失水の速さが花の香りをどこまで高められるかを決めます。
そして日光は、室内ではまだ再現できない花と蜜の香りをもう一つ与えてくれます。
天気が良い日は、太陽が大きな助けになります。
天気が悪い日は設備が頼りになり、それ以上に、摘むかどうか、どう萎凋するか、
いつ止めるかという製茶人の判断がものを言います。
次に香りの美しい烏龍茶に出会ったら、その背景には、こうした判断の積み重ねがあるのかもしれません。
烏龍茶の良い香りは、天の恵みだけでなく、製茶人の経験と技によってもつくられます。
この記事がお役に立てれば幸いです。また次回お会いしましょう!
参考資料
Liu, B. et al. Optimizing dehydration ratio and rate during the withering process enhances aroma quality of oolong tea. npj Science of Food 10, 259 (2026).
#遊山茶訪 #台湾茶 #ウーロン茶 #凍頂茶 #観光工場 #FSSC22000 #安全茶 #安心茶 #茶知識 #日光萎凋 #製茶 #お茶の科学 #ウーロン茶の香り #萎凋

