皆さん、こんにちは。
お茶好きの Andy です。
最近、お茶の官能評価と化学分析に関する2つの研究を読みました。
1つは中茶302号(Zhongcha 302)の焙煎緑茶における香りの相互作用に関する研究、
もう1つは可視/近赤外分光法(Visible/Near-Infrared Spectroscopy, VIS/NIR)とケモメトリクス(chemometrics)
を組み合わせて、半発酵茶の産地を分析した研究です。
この2つの論文をもとに、機器分析や化学分析が人の官能評価に取って代われるかどうかを考えてみます。
結論から言うと、短期的にはまだ難しいと思います。
化学分析はお茶の成分プロファイルを素早く把握できますが、
官能的な感覚は成分数値の単純な足し算ではなく、相互作用(interaction)に満ちた複雑な現象だからです。
お茶の化学成分は味わいを表している
お茶の味わいは、突き詰めれば舌や鼻に届くさまざまな化学物質の信号です。
例えば、カテキン(catechins)はお茶に含まれる主要なポリフェノールで、渋みの主な源です。
発酵度が低いほどカテキンが多く残るため、緑茶は全発酵の紅茶よりも渋みを感じやすくなります。
カフェイン(caffeine)は苦味の重要な要因で、
茶湯の苦味の強さは、カフェインと一部のカテキンの比率に関係することが多いです。
遊離アミノ酸(free amino acids)のひとつであるテアニン(theanine)は、
甘みと旨味に似たまろやかさをもたらします。
茶湯に含まれる可溶性糖は甘みに直接寄与し、
含有量が多いほど、最初に感じる甘さも強くなる傾向があります。
香りの部分はさらに複雑で、数十から数百種類の揮発性成分(volatile compounds)が組み合わさっています。
その種類と比率によって、花のような香り、果実のような香り、蜜のような香り、焙煎香などが決まります。
つまり、お茶の味と香りには、それぞれ対応する化学成分が存在するのです。
これが近年、化学分析を用いてお茶の官能特性を説明し、さらには予測しようとする研究が増えている理由でもあります。
近赤外光は迅速な成分分析を可能にする方法
成分と味わいの対応関係が分かったら、次はそのデータをいかに迅速に取得するかです。
GC-MSなどの従来の化学分析は精度が高い一方、時間がかかり専門機器や前処理が必要なため、
仕入れの現場や生産ラインでのリアルタイム判断には向きません。
もう1つの研究では、可視/近赤外分光法を用いて、
ベトナム、中国、台湾それぞれの産地から集めた烏龍茶などの半発酵茶の成分を判別しています。
しかし化学成分を把握しても、人の官能的な感覚は成分の単純な足し算ではない
とはいえ、そう単純な話ではありません。
中茶302号の香りの相互作用に関する研究は、まさにこの点を示しています。
2種類の香り物質を混ぜて嗅ぐと、人が感じる強さは単純な足し算にはならず、
相乗(synergistic)効果やマスキング(masking)効果といった相互作用が現れることが分かりました。
つまり、同じ化学物質の組み合わせであっても、相互作用の影響によって、
最終的に感じられる強さは理論上の合計値より高くなることもあれば、低くなることもあるのです。
この現象は、日常生活にも似た例があります。
スイカが甘くないとき、少し塩をかけると逆に甘く感じることがあります。
これは知覚対比(contrast)による効果です。
しかし化学分析にかけると、塩そのものには糖分すら含まれておらず、
甘さには寄与していないはずなのに、人は確かに甘さが増したように感じます。
つまり、化学成分表だけを見ると、
塩という変数は甘さの計算にほとんど現れませんが、人の感覚は確かにその違いを捉えています。
お茶の香りや味わいも同様で、さまざまな化合物の間に複雑な相互関係が存在し、
これは現在の化学分析手法ではまだ完全には捉えきれない部分です。
AIは将来の解決策になり得るが、継続的なデータの蓄積が必要
それでは、人の官能評価はまったく代替できないのでしょうか。
長期的には、AIはこうした複雑な相互作用を扱える可能性のあるツールだと考えています。
機械学習モデルは本来、非線形(nonlinear)で多変数間の関係を扱うことに長けており、
変数同士が独立していて単純に足し算できると仮定する従来の回帰モデルとは異なります。
ただし、ここには前提があります。
AIがこうした相互作用の背後にある法則を学習するには、
官能データと化学データを対応させた大量かつ継続的なデータの蓄積が必要で、
少数のサンプルだけでは信頼できるモデルを訓練することはできません。
これは、郝旭烈氏が著書『享受蛻變』の中で述べた言葉を思い出させます。
成功に奇跡はなく、成果は積み重ねによってのみ生まれる、という言葉です。
この言葉は、AIによるお茶の評価にもよく当てはまります。
データベースが十分に蓄積されていなければ、どれほど優れたモデルであっても、
お茶の官能特性の背後にある複雑な関係を本当の意味で理解することは難しいのです。
まとめると、化学分析やAIが人の官能評価に取って代われるかという問いに対する私の考えは、
これらは成分プロファイルを素早く把握するための重要な補助ツールになり得るということです。
しかし、人の感覚を完全に置き換えるには、
さらに長期にわたるデータの蓄積とモデルの検証が必要だと思います。
この記事がお役に立てれば幸いです。
また次回お会いしましょう。
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